2017年1月1日日曜日

新年のご挨拶

皆様に新年のご挨拶を申し上げます.本年もどうぞよろしくお願い申し上げます.

さて今年2017年の2017が素数ということで,それをお題に何か述べるべきかと存じまして一席講じます(なんで落語みたいになっているのでしょうか).

2017は4で割ると1余るので,ガウスの整数環 $\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$ では2つの次数1の素イデアルの積に分解します.奇素数 $p$ が $p\equiv 1\pmod{4}$ であることと,ガウスの整数環で分解することが同値であることは有名で,多くの方が触れているようです.2017は8で割っても1余ることを注意しておきます.

別の話題として,虚2次体 $k=\mathbb{Q}(\sqrt{-2017})$ に注目してみましょう.$k$ の類数は $12$ です.(pari-gp だと quadclassunit(-2017) で, [12, [12], [Qfb(19, 8, 107)], 1] という結果が得られます.これは,類数が 12, 位数 12 の巡回群で,生成元となる2元2次形式が $19 x^2 + 8 xy + 107 y^2 $ であると読みます.最後の 1 は単数基準で,虚2次体の場合はつねにそうです.)

実は,「虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 4 で割り切れるためには $p\equiv 1\pmod{8}$ が必要十分条件」であることが知られています(Redei-Reichard).言い換えると,「虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 4 で割り切れるためには $p$ が $\mathbb{Q}(\zeta_8)$ で完全分解すること必要十分条件」.

「虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 2 で割り切れるためには $p\equiv 1\pmod{4}$ が必要十分条件」はガウスの種の理論(を2次体の数論の言葉で述べたもの)から従うので,上に述べた事実はその精密化ということができるでしょう.この場合も,言い換えは「虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 2 で割り切れるためには $p$ が $\mathbb{Q}(\zeta_4)$ で完全分解すること必要十分条件」.

この調子で,$\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 2冪で割り切れる条件が, $p$ の 2 冪での余りが 1, と言えるときれいですが,人生はそのようにsimpleではないのでした.素数17や97は $17\equiv 97 \equiv 1\pmod{16}$ ですが,$\mathbb{Q}(\sqrt{-17})$, $\mathbb{Q}(\sqrt{-97})$ の類数は $4$ で,期待したように $8$ で割り切れてはいません.

この場合の必要十分条件は次のようになることが知られています(Barrucand and Cohn):「虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 16 で割り切れるためには $p = x^2 + 32 y^2$ となる整数 $x,y$が存在することが必要十分条件」.さらに,「虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が 16 で割り切れるためには,$p$ が $\mathbb{Q}(\zeta_8, \sqrt{1+\sqrt{2}})$ で完全分解することが必要十分条件」.

例えば$p = 41, 113, 137$などがそうで,この3っつについては $\mathbb{Q}(\sqrt{-p})$ の類数は 8 です.2017 は $x^2 + 32 y^2 $という表示を持ちませんが(全探索で分かります),それは$k=\mathbb{Q}(\sqrt{-2017})$ の類数が 12 で,8 では割り切れないことと符合します.最近の年号だと, $1993 = 29^2 + 32 \cdot 6^2$, もしくは $2113 = 31^2 + 32\cdot 6^2$ が該当します.$\mathbb{Q} \sqrt{-1993})$ の類数は 24, $\mathbb{Q}(\sqrt{-2113})$ の類数は 16です.

すると,$\mathbf{Q}(\sqrt{-p})$ の類数が2冪 $2^e$ で割り切れる必要十分条件が,有理数体上のガロア拡大$\Sigma(e)$ で素数 $p$ が完全分解することである,と言えるような,代数体 $\Sigma(e)$ の存在を期待したくなります.このような体を「支配体(governing field)」と呼びます.

今回は $\mathbf{Q}(\sqrt{-p})$, $p\equiv 1\pmod{4}$ の類数の2冪での可除性のみ扱いましたが,判別式 $D$ を固定して,$\mathbb{Q}(\sqrt{Dp})$, の $p$ を動かした2次体の族について,その族のメンバーとなる2次体のイデアル類群 $C(Dp)$ の 2冪ランク(2ランクは $C(Dp)/C(Dp)^2$ の体 $\mathbf{Z}/2\mathbf{Z}$ 上のベクトル空間としての次元,4ランクは $C(Dp)^2/C(Dp)^4$ の同じ次元)について考えます.

支配体については,山本芳彦先生の「数学」40巻2号,1988年,に掲載された論説をご覧ください(オンラインで参照できます).

幾つか誤植(平方根の記号の入れ忘れなど)を訂正し,山本先生の論説へのリンクを貼りました.誤植のご指摘ありがとうございました.

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