2010年10月21日木曜日

木曜日は講義二つ・金沢へ

木曜午前は,3年生向けの代数学の講義がある.昨年同様,中島匠一先生の「代数と数論の基礎 (共立講座21世紀の数学)」をテキストに,2章の「環と体」から始めた.ペース配分を考えながら着々と進めたいところ.

昼休みを挟んで,午後一に2年生向け線形代数学の続き.続き,というのは,月曜日の続きであり,つまり週に2回90分の講義がある(ので,半期で30回なのだ).Jordan標準形に向けて,体上の多項式の話を始めた.

線形代数学のコースがどんなものであるべきか,折々に考える.体上の加群と,それらの間の準同型写像の理論だというのが,狭義の線形代数学としよう.体上の加群は自由加群であること,依って線形写像は生成元(基底)の行き先で決まること(行列表示)が根本であろう.これらは多くの教科書で強調されるが,線形空間の双対性(双対空間の双対空間が,元の空間と自然に同型であること)はあまり触れられないようだ.

特定の体に依存する話はそれに続く各論と言うことになる.理論的・演繹的にどのように主題を並べるか,と言うことと,実際に講義する場合とで,何らかの違いが生じるか否か.数ベクトル空間や,行列の操作(基本変形や掃き出し法など)にどの程度の時間,ページ数を割くべきだろうか.

また,特に実数体,複素数体上の線形代数学は,コンピュータの上で具体的に計算することが広く行われている.厳密に計算できることもあれば,近似計算をする場合もある.伝統的な線形代数学のコースでは,こういった話題はあまり触れられない(掃き出し法やクラメールの公式などは使い処が限定される).云々.

夕方からは,金沢でのセミナへ向かう.まごまごしている間に,雨模様も手伝って高速バスを乗り逃がした.列車で移動し,15分ほど遅参.参加者の集まりが悪く,開始が遅れたので,冒頭から聴講できた.

類数が1の代数体は無数にあるか,と言う問題は,やや意外なことに未解決である.実2次体の中には類数が1であるものが無数にある,というのはGaussによる予想で,未解決である.これをずっと弱めて,奇素数を一つ固定して,この奇素数で類数が割りきれない実2次体は無数にあるか,あるとしたらどのくらいの密度であるか,と言う問題は,私が長く興味を持っている問題である.

一方,Weberに依るという,すべての2冪分体の最大実部分体の類数が1であろうというのも未解決だが,近年国内で進展があった.今回はこの問題に関する気鋭の研究者による講演だった.大変興味深く聴講した.

2010年10月18日月曜日

後期の講義;線形代数学II

後期の講義は,線形代数学II(2年生向け)と,代数学II(3年生向け).前者は週2回,月曜と木曜であり,後者も木曜である.木曜は隔週で金沢でのセミナがあり,やや忙しい.金曜にも不定期で講義がある(オムニバス形式なのだ).

線形代数学の講義は,前期を担当した同僚から引き継いだところ,正規行列が対角化可能であるとか,複素数体上の線形作用素のスペクトル理論とか,ほぼ一通り終わっているとのことだった.Jordan標準形から始めればいいのだが,教科書では証明が省かれており,しかも30回も講義回数があるとなると,時間余るように思われる.

なので,単因子論の前振りとして,整数行列のSmith標準形から話を始める.そのために,整数のEuclid性などから説き起こした.今日までの3回でSmith標準形が一段落.

応用として,有限(生成)Abel群の構造定理などを解説するのが定番だろうが,2年生向けと言うことで割愛.有限Abel群の当たり前でない(1の冪根の群など,巡回群でない)例で,2年生にも手短に説明できるものが思いつかなかった.2元2次形式の同値類を合成によって群と思ったものとか……?

種本は,木村達雄先生他の「代数の魅力」.