2008年5月31日土曜日

GMPからforkしたMPIR

GMPからfork(分岐)したMPIRというプロジェクトが立ち上がっている。まだ成果物は公開されていない。SAGEを率いるWill Steinさんのblogで知った。

GMP(GNU Multiple Precision Arithmetic Library)はGNUプロジェクトの一つで、多倍長の整数、有理数、浮動小数点数の演算を実現するためのライブラリを提供している。CPUに応じて、基盤となる演算をアセンブラで書いてあるなど、高性能であることもあって普及している。

幾つかの商用の数学ソフトウエア(Mathematica, Maple, Magma)などでも使われているし、例えばpari-gpのようなフリーの数学ソフトウエアにも組み込まれている。また、多倍長演算を言語の規格に組み込んでいるLisp/Scheme処理系でも多く使われているし、rubyやpythonなどにも使われている。

ところが、GMPの開発体制に次のような意見があった:
  • GMPはリリースの間隔が長く、不定期で、また間が空きがち
    • 新しいアーキテクチャのCPUが市場に出回っても(例えばcore2duoなど)、それに対応したバージョンがなかなか出てこない
  • Microsoft Windows上のネイティブな開発環境(Visual Studio)がサポートされていない
  • 同様に、MacOS Xのサポートも十分とはいえない
  • 公開されているcvs/svn/tracサーバなども無い
  • ライセンスがLGPLで、営利企業にとっては使用する敷居が高いことがある
これらを解消するために、新たなプロジェクトMPIRを立ち上げたとのことである。プロジェクトのフォークは、開発者の二分と、それによる進捗の遅れなど懸念されることも多い。うまく収束してくれることを願う。

なお、GMP4.2.2をCore 2 Duo環境でコンパイルするためのパッチが複数公開されている。

2008年5月29日木曜日

Ubuntu debut (FreeBSD 7.0 and Ubuntu)

仕事の合間を見て、FreeBSD 7.0の環境を整備中。例によってVMWare Workstation 6.0 on Microsoft Windows XP上の仮想マシンである。ウィンドウマネージャー(いまだにWindowMaker)が立ち上がるくらいになったら、後は実際に仕事をしつつ、必要になったパッケージを導入。CVSから書きかけのファイルをcheck outして、それがTeXのファイルならteTeXやispellや、そもそもemacsも、という調子。

昨日ふと思い立って、最近人気のLinux distributionの一つ、Ubuntuに手を出してみる。「VMWare用仮想マシンのダウンロード」というページから、仮想マシンを頂いてくるだけ。インストール作業すら省いて、プレインストールのパソコンを買ってくる感覚である。

なんと言うことも無く立ち上がり、なんと言うことも無くディスプレイのサイズを変更し、なんと言うことも無くアップデートして、8.04 Hardy Heronになった。どのくらい真面目に使うかは不明。

火曜日の授業:大学院講義と4年生ゼミ、Euclidの論法

火曜日は午前中、大学院講義。有限体の乗法群での具体的な計算をデモンストレーションして、平方剰余記号の相互法則に向けて、代数的数や代数的整数を導入。ほとんど、小野孝「数論序説」をなぞる形になっている。

午後は四年生のゼミ。教育実習の為に四人中二人が不在なので、短めの論説を幾つか読もうと思った。が、来るはずの一人が来ない。仕方ないので、マンツーマンで論説の一つを解説し、進路に関して相談というか、雑談。

Euclidによる、素数が無限個あることの証明は、こんな具合だった。始めのs個の素数を持ってきて、それらすべてを掛けて1足した数Qの素因数は、s個の素数のどれとも異なる、と。始めに用意した素数の最大のものと、Qの間には少なくとも1つ素数がある、ということが示されているわけだが、これをもっと改良できるよ、というのが、上掲の論説の内容である。

2008年5月27日火曜日

Facebook debut

FacebookのUIが日本語化されたということをきっかけに、登録してみた。まだ本当に登録しただけ。Gmailのアドレス帳から知り合いを探してくれるというのでやってみたら、一人だけ発見した。

正直なところ、これが何故web OSの最有力候補とされているのか、理解できていません。

月曜日の授業:自然と情報の数理

今回はEuclid原論から、初等数論にあたる部分をかいつまんで解説した。VII巻とIX巻。

内容は今の視点から見ると大変平易なもの。しかし原文では、文字式というものが使われていないので、なれないと非常に読みづらく忍耐が必要。もちろん解説の際には適宜現代風にアレンジして話してはいる。

今回準備していて、アルトマンの本にあったのだが、Euclid自身はいわゆる「算術の基本定理」に言及していないらしい。これは、任意の自然数が、素数の冪積にただ一通りに表される、という主張である。同書によれば、近い主張はIX巻の命題14, 平方自由な自然数の場合を扱ったもの。

最初に証明を与えたのはGaussだそうだ。高瀬訳「ガウス 整数論 (数学史叢書)」(書影がないとはどういうことか?)の第2章16節に「定理:どのような合成数もただ1通りの仕方で素因子に分解される。」とある。証明の冒頭に、一通りにのみ分解されるという事実は、「たいていの場合、不当にも暗々裏に仮定されている」とある。



前回のプレゼンテーションスライドを公開し忘れていたので追記した。)




2008年5月21日水曜日

火曜日の授業:大学院講義と4年生ゼミ、Ramanujan family planning?

大学院の授業は、主に有限体の乗法群が巡回群であること。離散対数の定義、n冪剰余の取っ掛かりの部分。原始根の求め方、離散対数の求め方などアルゴリズミックな話は先送り。ElGaml暗号やDSAの話も、このくらいの予備知識でできるけど、時間の都合で割愛。

午後は4年生セミナ。群論の復習。来週から4名のうち2名が教育実習のため3週ほど不在になるので、その間は短い論文や読み物(Math. IntelligencerAmer. math monthlyに掲載されたものなど)を読んでもらう予定である。

その内の1つとして、J. H. Silvermanの論説Taxicabs and sum of two cubesを配った。HardyとRamanujanとに関する有名な逸話があって、いわゆるタクシーのナンバープレート1729の話である。1729=10^3+9^3 = 12^3 + 1^3と、2つの3乗数の和に2通りに書ける最小の数だ、とRamanujanが喝破したという。他にこのような数が無いか探すことは、x^3+y^3=Aが複数の整数点を持つAを探すことと同じだということから、楕円曲線の有理点ないし整数点へと話を広げていくのが、Silvermanの論説。

セミナを解散した後で、これに関連する論文が無いか探していたところ、Ken Onoの論説RAMANUJAN, TAXICABS, BIRTHDATES, ZIPCODES, AND TWISTSも見つけた(リンクは同氏のweb pageで公開されているバージョン)。Ramanujanの別の仕事に、1729の並べ替えである2719が現れる。すなわち、二次型式x^2+y^2+10z^2により表されない奇数のうち最大なものが、2719だ、というところから、半整数重みの保型形式と志村対応などへと話を広げていく。

というのはまじめな数学の話。Ono氏の論説の前振りが愉快だった。RamanujanのLost notebookの編纂に尽力しているB. Berndtという数学者が居る。彼の一番下の娘が1972年生まれなんだそうで、これも1729の並べ替えになっている。「偶然なのか、それとも"Ramanujan family planning?"の例なのか?」。一人声を上げて笑ってしまった。

2008年5月20日火曜日

月曜日の授業:自然と情報の数理

今回もEuclid「原論」の第I巻から、平面幾何の話。二等辺三角形の二底角は等しいとか(5)、二底角の等しい三角形は二等辺三角形である(6)とか、三角形の合同条件(二辺挟角(4)、三辺相等(8))など。括弧内の番号は、原論I巻での定理番号。

興味のある方は、例えばEuclid's Elementsなどご参照のほどを。Java appletを多用して議論を分かりやすく解説してあります。

とはいえ、やはり原典に手軽にアクセスできると便利なので、中村幸四郎他「ユークリッド原論」を購入。Heiberg編集のEuclid全集第1巻から第4巻までに収められている「原論」からの日本語訳。「原論」の日本語訳があるというのは、考えてみれば凄いことであり、それを手元に置くというのは嬉しいことだなぁ、と一人悦に入る。これは縮刷版で、以前学生のころ、箱入り上製本を入手するのを躊躇したのを思い出す。

ついでにガイドブックとして、アルトマン「数学の創造者―ユークリッド原論の数学」も入手(なか見!検索あり)。この本は、取り上げている命題が必ずしも本文中に述べられていないので、「原論」が手元に無いと少し読みづらいかもしれない。

次回以降は、Euclid「原論」から数論の話題などを取り上げる。原論は今月中までとして、来月以降は別の話題に移ろうと思う。



(2008/05/27追記:プレゼンテーションスライドを掲載し忘れていたので上掲追加。)




2008年5月14日水曜日

火曜日の授業:大学院講義と4年生ゼミ

午前中の大学院講義は、主に中国式剰余定理(これをCRTと略すのはどのくらいポピュラーなのか?)。これでEuler関数の乗法性も従う。ついで体の乗法群の有限部分群は巡回群という主張に入り、証明の途中で時間切れ。次回は証明を完結させて、平方剰余や冪剰余、相互法則の証明などやって、初等数論は終わりにしたい。でも五月中はこれで目一杯かも。

午後の4年生ゼミでは、群が導入され、群の集合への作用、商集合を定義。GL(2,Z)の無理数への一次分数変換での作用と連分数展開とのかかわりの話。

2008年5月13日火曜日

月曜日の授業:自然と情報の数理

恒例の「自然と情報の数理」。今回は、Euclidの原論第一巻の初めのほうを紹介した。大体どんな雰囲気か知ってほしかったのだ。

「定義」をゆっくり説明していたら、教室の活性が大分下がってしまった。本文に入って、例えば最初の、「与えられた線分を一辺とする正三角形を与える」というのを、「さぁ皆さん考えてみてください」と言ったら、ぐっと活性が上がる。こういう反応を見られるのが、講義をする楽しさの一つだ。

プレゼン用のスライドは以下のもの。スライドの4枚目から9枚目の「定義」の部分は、箇条書きの番号が通し番号になっていたのだが、今見たらページごとに1から始まってしまっている。OOo ImpressでPowerPointに変換したときか、はたまたGoogle Spreadsheetの制限なのか、不明。






2008年5月10日土曜日

twitter debut

遅ればせながらtwitterデビュー.こちら.Follow me :)

Twitterはいわゆるマイクロブログ(micro-blog). 数十文字程度の短い書き込みを重ねていくもの.通常のサイズのblogよりずっと小規模で,一方IMほどinstantでないというニッチなんだけど,ずいぶんポピュラーになってきた模様.

木曜日はセミナ:1-2-3

木曜日は隣町でセミナ。学期中は隔週で、前回に引き続き二度目。

今回もメンバの一人と高速バスで同道となり、四方山話。最近の本の話になって、偶然ながら二人とも「The 1-2-3 of Modular Forms: Lectures at a Summer School in Nordfjordeid, Norway (Universitext)」を持っていておかしかった。持っているというのは、どちらも鞄の中からその本を取り出した、という意味で。楕円modular型式、Hilbert modular型式、Siegel modular型式についてそれぞれZagier, Bruinier, van der Geerが入門を執筆し、さらにHarderによる彼自身の名前のついた予想について解説している(上記amazonへのリンクをたどると、「なか見!検索」が可能)。

この時間のバスで移動すると、セミナ開始まで1時間ほど余裕がある。早めに会場入りして自分の仕事をするか、あるいは本屋など巡るかはそのとき次第。自分の住んでいる町にも、紀伊国屋書店ができたので、以前ほど本屋巡りに時間を割くことはなくなってきている。

今回は、今日店頭に出る新書を探しに書店へ行った。齋藤孝・梅田望夫「私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書 (723))」を購入。1階のCD売り場が無くなって、書店の売り場が増えていた。

セミナは二本立てで、密度濃く勉強。いつもより少し時間が延びたので、参加者が顔をそろえての夕食は中座することになってしまった。


2008年5月8日木曜日

jsvi, vi-clone written in pure JavaScript

IDEA*IDEAで紹介されていた,JavaScriptで書いたvi clone, jsvi. viはUnix互換環境で広く用いられている(用いられていた?)テキストエディタ.編集モードと閲覧モードの切り替えがあるとか,カーソルの移動がhjklだとか,現在の目から見るとちょっと独特.それをJavaScriptで実装して,webブラウザ内で使えるというもの.

だからどうした感が漂う逸品です.こういうのをみると,自分でエディタを書いてみたくなりますね(やらないけど).

幾つかイースターエッグのような物が見つかります.白状するとソースを見たのです.
:emacs Emacsモード.でも余りうまく動かなかった.
:kwak くわっく :)

2008年5月7日水曜日

連休後半に瑞龍寺へ


連休後半は,両親がこちらへ来ていたので,多少は観光のようなことを.ただ,遠来であったことと滞在期間が短かったことから,車で一時間前後の近隣のみとなった.

写真は高岡の瑞龍寺の仏殿(国宝).均整の取れたシルエットには毎回目を奪われます.歴史や建物の説明などはwikipediaの「瑞龍寺(高岡)」の項にも説明あり.

このあと,氷見のフィッシャーマンズワーフに寄って,もの凄い混雑の中,昼食.その後帰宅しました.
Posted by Picasa

2008年5月3日土曜日

金曜日は火曜日の時間割・FreeBSD on VMware workstation

火曜日が休日で、金曜日はその振り替えなのか、火曜日の時間割。こういうのは分かっていても混乱する。

午前中は大学院の講義。環論の初歩で、イデアルや剰余環、準同型写像、準同型定理、環の乗法群などをやって、特に有理整数環の剰余環の乗法群と、その位数としてEuler関数。中国式剰余定理やEuler関数の乗法性、Fermat-Eulerの定理は次回持ち越し。

午後は4年生セミナ。連分数展開の話。連休の影響か、進捗が余り芳しくない。早めに終了。

いくつか作文の宿題があるので、帰宅までそれに取り組む。のだが、こういうときに限って使っているソフトが微妙に不調。VMware workstation 6(6.0.3 build-8004)をMicrosoft Windows XP上で使っていて、ゲストにFreeBSD 6.1を使っている。FreeBSD側で作業をして、CVSにcommitすると(repositoryはネットワーク越しのサーバにある)、5回に1回くらい、commit中にFreeBSDが固まってしまう。

FreeBSDはDHCPでIPアドレスをもらっているのだが、これがexpireしている時にこの症状が出がちな気がする。FreeBSDを7.0にバージョンアップする予定で、深く追求していない。

時々こういうことがあるとはいえ、VMwareの便利さは手放しがたい。とりあえず試してみたい方は、VMware player (無償で提供されている仮想化ソフト)と、FreeBSDや各種Linuxデストリビューションのうち気に入ったものをここからダウンロードして遊んでみることができる。

FreeBSDのinstall/解説本も一頃のようには出版されていないようだけど、手元にまだ残っている本から、後藤大地他「FreeBSDビギナーズバイブル (MYCOM UNIX Books)」を紹介。ネットワークのことをはじめ、Unixのユーザ・管理者としての常識を涵養するには、山口他「新The UNIX Super Text 上 改訂増補版」、「新The UNIX Super Text 下 改訂増補版」が今でもお勧め。細かい各論は、必要に応じて自分で何とかするべし。




2008年5月1日木曜日

月曜日の授業:自然と情報の数理

そういえば貼り付けていなかった。月曜日の自然と情報の数理のスライド:



月曜の午後、このスライドを仕上げていたら、突然Googleに接続できなくなってしまった。
作業は手元のPCにインストールした、OOo Impressで行っていたので大過なかったけど(調べ物にちょっと不自由しましたが)。

多くの大学で、4/28午後にGoogleに接続できない、という事象が発生していたそうな。
これでも大学職員のブログ -情報センター勤務中」の「全国の大学からGoogleへアクセスできず」というエントリ参照。原因は不明の模様。