2013年3月22日金曜日

卒業式

本学の卒業式の日だった.少し肌寒いが快晴.

全学の卒業式は,卒業・修了する学生の方々と学長他のみの出席で,私は午後の,学科別の催しに参加.学位記授与の際に,筒を手渡していた.

例によって一言挨拶を求められたが,恒例の,ガウスが寝起きざまに,コンパスと定規だけで円周を17等分できることを発見して数学者を志したのが今頃です,という話は,知っている人は知っているでしょうし,初耳の人は次の瞬間忘れると思うのでおいておくことにして,とにかく皆さんご卒業おめでとうございます,と言うようなことを申し述べた.今年の私のゼミにいた3人も,それぞれに進路を決めて頼もしいかぎりである.

年に数回しか履かない革靴に難儀しながら,早めに帰宅.

2013年3月21日木曜日

直感

新聞で,「プロ棋士の直観、「尾状核」訓練すれば素人も」などという記事が現れたらしいが,これは昨年11月にプレスリリースが出ている,理研脳科学総合研究センターの研究(Journal of Neuroscience)であった.

問題を提示されたときに,解決のための第1手として「筋の良い」ものを取るのは上手の証拠で,それは訓練によって開発されるはずだが,確かにそうです,そしてそれは大脳基底核にある尾状核というところの働きです,ということらしい.

脳のどこの機能であるかはともかく,訓練で上達するのは,それはそうだろう,と思いたくなるが,研究の眼目は,

この直観的思考の神経回路を使うことができるのは、長年にわたる訓練によるものか、もともと尾状核の神経回路の働きが良かったのか判断がつきませんでした。(プレスリリース囲みの文章の2段落目)

というところらしい.つまり,環境により選抜されたのではなく,訓練で伸びますよ,と.

そうでないという結果が出ていたら,どんな風に発表されたのか興味あるところである.

一方で,解決すべき問題が端的に提示されること(この論文のように,将棋や囲碁のようなゲームや,もしくは受験問題のようなものが代表的な例)はむしろ稀で,何を問題にし,どんな解決を念頭に置き,とれる手段はどんなものがあるのか,を考える方がより多いようだ.そしてそれは,うまい着手を瞬時に見つける,というのとはまた別の能力のように思われる.

2013年3月20日水曜日

休日出勤

何かの祝日でお休みだけど,例年この日は出勤日となる.午前,午後ともに短めの会議が入る.

合間に文献調査・文献読み.夕方は早めに撤収した.生暖かい南風が強く,気温が高め.子供らは,日中映画を見に連れて行ってもらったりしてご満悦だったようだ.

夜になって,P. Deligneが今年のAbel賞を受賞との報に接する.リンクされているK. Murtyのプレゼンが面白い.

2013年3月19日火曜日

Schlachthof

文献調査と文献読みをしていたが,メジャーな雑誌の論文が勤め先で手に入らず,複写依頼を出す.

論文を読んで証明をフォローしても,どうも腑に落ちない,そういうことがらが成り立つintrinsicな理由がよくわからない,という不全感が残ることがあり,それはもちろん個人の資質のせい,というのが一つの説明だが,もう一つの説明としては,やはりまだ解明し切れていないせい,ということも勘定に入れておいて良いと思う.だが,あまりにそれに拘泥して手をこまねいていてもしょうがないので,できることはやってしまう,という方針は健全なものである.

週末から読んでいた,カート・ヴォネガット「スローターハウス5」をKindleで読了.高校生の頃に読んでいるはずだがほとんど記憶に残っておらず,再読して非常に強い印象を受けた.第二次大戦のドレスデン爆撃に巻き込まれた主人公ビリー・ピルグリム(作者の分身でもある)を語り手とする物語だが,時間と空間を無作為に飛び回りつつ,果ては宇宙人に拉致されたりもしながら,確かにこういう書き方でないと伝わらない事を伝えている.

ドレスデン爆撃の第一陣は,本作では米空軍による爆撃であるかのように書かれているが,実際には英空軍によるものだった.それについては,ダイソンの「宇宙をかき乱すべきか」の始めの方で,「スローターハウス5」を引きながら語られている.ダイソンは爆撃隊が所属する空軍基地で,例えば乗組員の生還の割合が他のどんな指標と相関するか,といった統計解析を行っていたという.

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2013年3月18日月曜日

河岸

現3年生の4年進級,ならびに来年度のゼミ配属を決めるなど催しのおおい日だった.しかし私のゼミの希望者はいなかったので拍子抜け.来年度は(通常の講義の他に),修士の人たちと勉強することになる.

テキストの候補として挙げたのは,W. Stein, "Elementary Number Theory:
Primes, Congruences, and Secrets"で,Sageを使いながらやりましょう,という感じだったのだが,代数学&コンピュータということで,逆に敬遠されたのかもしれない.

夜は,退職される同僚を送る会似て,和やかに会食.お開きの後,数人で河岸を変えた.

2013年3月14日木曜日

Google Reader廃止

Googleはときどき,自社が提供するサービスに大なたを振るうのだが,今回はGoogle ReaderというRSSリーダの提供を,7月1日付けで打ち切るという.

しかし,ここでRSSリーダが何かという説明はせず,というのは,知っている・使っている人には無用だろうし,始めて聞く人には簡単には説明しづらいので.私は愛用していたので,ちょっと困った事態になった.TwitterのTime lineを見ているとそういう人が大勢いるように見えるが,そういう人たちを集めて自らが作ったTLだからそう見えるのである.

代替サービスを提供するというところも幾つかあるようで(FeedlyFlipboard),時間のあるうちに探しておきたい.RSSリーダではなく,recommendサービスも最近注目を集めていて(Mynd DailyGunosy),興味を持っている.

しかし,一方でRSSは既に古くなった仕組みだとも言える.例えば,WordpressでホストされているBlogでは,記事とコメントのRSSを独立に提供していることがおおい.本当なら,記事とコメント,さらにその記事に言及したSNSへの投稿などが重畳されたフィードが欲しい.また,自分で登録したフィードだけでなく,興味を持ちそうな記事の推薦など(上述のrecommend service)もあって欲しい.これからはそういった仕組みが開発され普及していくべきだろう.

2013年3月13日水曜日

鳥と蛙

午前中から風が強く,構内のビル風を浴びながらよろよろと出勤.

ここ数日来の計算の続き.手計算と機械計算が合わず,やっているうちにだんだん分からなくなってくる.なんなんでしょうね.

午後から雨も降り出し,春の嵐.

Twitterで「Birds and Frogs」という単語を見かけて,Freeman Dysonの同名のエッセイ(Notice of AMS)を思い出した.全文が公開されている(PDF).数学者を二つに分けて,一方は非常に特別な問題(往々にして,数学の他の部分との関連が不明な,孤立した問題)に取り組む「蛙」型と,数学全体を見渡して共通の概念を抽象する「鳥」型とに分類し,例として様々な数学者,そして彼らが取り組んだ問題を挙げながら論じたものである.

前者としては例えば,Dysonが学部生の頃の助言教員だったBesicovitch(掛谷の問題の解決で有名),後者としてDysonがIASに渡ってから親交のあったWeyl(数学のほぼ全域に通じた万能型)を挙げている(他にも大勢の名前が挙がっているが,原文を当たって頂きたい).

Dysonは「A Many-Colored Glass: Reflections on the Place of Life in the Universe (Page-Barbour Lectures)」の1章でも類似の考察を行っているが,そこでは「ハリネズミと狐」になっている.

2013年3月12日火曜日

数学の能力?

朝から後期日程試験があり,粛々とお仕事.

午後は積み残していた事務仕事を片付け,自分の計算にもどる.

「数学の能力が向上すると、脳の他の分野の活動が弱まると判明:英大学研究」という記事をウェブで見かけた.見出しは人目をひくために些か誇張があってもやむを得ないかもしれないが,記事そのものが,原論文の紹介としては誤報に近いものだった.ちょっと検索すれば原著者のウェブが見つかり,また原論文もオープンアクセス論文で誰でも見られる.

数学の能力としているものも,記号と数字との結びつきを学習し,記号を見せられて,それらに対応する数字の大小を判断する,という程度のことのようだ.


原論文では,脳の特定部位への非侵襲的な電気刺激で,ある認知機能が増進させられること,一方,別の認知機能を低減させるという副作用があり得ること,を主に主張しているようだ.

2013年3月11日月曜日

不等式

花粉のせいか(そうとしか思われないが)鼻が詰まって眠りが浅く,ぼんやりと起床.起きてから鼻炎薬を飲む.今シーズンから処方箋がなくとも手に入るようになった例の薬ではなく,昨シーズン来の市販薬.

日中は,成立を疑っているとある等式が,実際に成り立たないことを確認すべく,手計算&機械計算.生産的ではないが,とにかく駄目なら駄目とはっきりさせたい.成り立たない等式はただの不等式だ,いやそれは違う,などと独りごちながら…….

とちゅう脱線したりもしつつ,いちおう,しっぽは掴んだつもりになる.しかし……魅力的な式ではあるので,内心は成り立って欲しいのである.

所用にて早めに帰宅.

2013年3月10日日曜日

真っ赤な

日中は家族が出かけたので,留守番.

昼食をつくり,食べながら,「終身犯 [DVD]」を観る.バート・ランカスター主演,監督は,ジョン・フランケンハイマー.殺人で収監され,さらに獄中でも殺人を犯した主人公ロバート・ストラウドは,死刑こそ家族の働きかけで免れるものの,終身刑に処せられる.しかし,ふとしたことで小鳥を飼いだし,やがて鳥類の病気に関する権威にまでなる.自ら開発した,鳥の病気に関する薬を売る事業を,外部の協力者と興し,やがてその女性と結婚するまでになるが………というような,実話にもとづく筋書き.

久々に見かえして,今の感覚だと,やや間延びした印象の箇所,またもう少し焦点が絞れそうにも思えたが,人間は何によって生きるのか,などと考えもする.この映画と,モデルとなったストラウドのことは,金沢21世紀美術館の展示作品,ヤン・ファーブルの「雲を測る男」で知ったのだった.

などと余韻に浸る間もなく,居間はドタバタと走り回る連中に席巻されてしまう.隅の方で珈琲を飲みながら,米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)」も読んでしまう.Kindleストアで安くなっていたので,名前は知っていても読んだことはなかったこの著者に取り組んでみた.

著者が1950年代にプラハのソヴィエト学校に通っていた頃の話と,成人後にそこでの同級生を訪ね歩いたノンフィクション.日本共産党の要職にあった著者の父がプラハに派遣され,その師弟として恵まれた生活を送りながらも,著者は子供心に色々な矛盾を見ていた.長じて,プラハの春とその弾圧,ボスニアでの民族紛争後の中欧で生きる旧友たちとの再会を通して語る話は,機知に富んだ筆遣いという糖衣にくるまれてはいても,大変に苦いものであった.

その日の授業は,マリヤ・アレキサンドロヴナ先生のこんな質問から始まった.「人体の器官には,ある条件の下では6倍にも膨張するものがあります.それは,何という名称の器官で,また,その条件とは,いかなるものでしょう」.(同書,位置No. 2326)
この質問に答えるよう当てられた女子学生ターニャ・モスコフスカヤが,「あたし,恥ずかしくて答えられません」などと言い,結局どういうオチがつくのかは,是非同書に当たって頂きたい.

2013年3月9日土曜日

age++

抜けるような青空なのだが,朝っぱらから光が少し黄色い.写真を撮る人や,絵を描く人は気になるだろうなぁ,と思いながら空を見上げる.

子供らが外遊びをするのにつきあったり,越冬した自転車にグリスを差したり,庭木にハサミを入れたりと,久々に屋外にいる時間が長い.現代人のたしなみとして,ちゃんと花粉症気味なので,マスクはしている.

午後は少し机に向かう.誕生日を祝って下さるメッセージがSNS経由でいくつも届き,誠にありがたいかぎりである.

日の傾く頃に,自転車に乗ってコーヒー豆を買いに行く.帰宅すると夕餉.

2013年3月6日水曜日

記号

出勤してみると,合格発表の掲示を出すための立て看板がずらりと準備されている.発表は3月7日(木)である.

来年度のシラバスを書くように,とのお達しが回ってきた.休み中は,どうしても理想にひっぱられて作文をしがちだ.現実を直視しなければならない.

もしこれから線形代数の教科書を書こうという方がおられたら,行列の括弧には,カギ括弧 $\displaystyle \begin{bmatrix}a & b\\ c& d\end{bmatrix}$ ではなく,丸括弧 $\displaystyle \begin{pmatrix}a & b\\ c& d\end{pmatrix}$ を使うよう,そして行列式の記号には,行列の両側を縦棒でくくる記法 $\displaystyle \left|\begin{matrix}a & b\\ c& d\end{matrix}\right|$ ではなく,$\displaystyle \det\begin{pmatrix}a & b\\ c& d\end{pmatrix}$ といった記法をお勧めしたい.というのは,前者の記号を混同してしまう人が,すくなからずいるからである.

2013年3月3日日曜日

birthday

昼食は,ひな祭りのちらし寿司とお吸い物.しかし子供らは,家人の誕生日にかこつけてケーキが食べられることだけが念頭にある様子.昼食後間もなく,ねぇ,ケーキまだぁ?を連発するのだった.

押し切られて,三時のおやつを少し前倒しする.自分の分を半分くらい食べると,こんどは人の食べているケーキが気になるらしい.ひとの鼻先にケーキを刺したフォークを突きつけ,これあげるから食べさせてぇ,と一方的である.

なんにしても,このように健やかな毎日を送れることには感謝の他はない.

2013年3月2日土曜日

ぴあぴあ

週の間はいつになく働いたので,土曜日は低空飛行気味.他大学の入試問題を見て回っているつもりが,既視感があって不思議な気持ちになるも,2012年度の問題を見ていた.紛らわしい……,のではなく,うかつなのだが.

雪がちらつき,風の冷たい午後.家族で出かけて,本や雑誌を購入.百貨店では梅春物ももう売り尽くしたいようだ.

先週のうちに購入して読んだ野尻 抱介,「南極点のピアピア動画」.最初の方は,ふ~ん,という感じなのだが,最後の2編で話の柄を大きくするのだった.「星間文明」という単語だけでぐっとくる人には,お勧め.

南極点のピアピア動画
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