2012年4月28日土曜日

Hasse-Weil $L$函数:mod 4で1の素数は2平方数の和

$E$が有理数体$\mathbf{Q}$上定義されているとき,$E$が良還元を持つような素数$p$について,$E\pmod{p}$の$Z(E\pmod{p}/\mathbf{F}_p;\, T)$の分子をEuler因子とし,また良還元ではない素数についてもしかるべく調整した因子$(*)$を掛けることで,$E/\mathbf{Q}$のHasse-Weil $L$函数を \[ L(E/\mathbf{Q};\, s) := \prod_{p}(1-a_p p^{-s}+ p^{1-2s})^{-1}\times (*) \] と定義する.この$L$函数は$s$の実部$>3/2$で収束するが,さらに全平面に解析接続され,$s$と$2-s$での値を関係づける函数等式を持つことが「予想」されていた,が,これは1990年代から2000年代に掛けて,志村・谷山予想のWilesらによる証明の帰結として解決された.
しかし,$E/\mathbf{Q}$が虚数乗法を持つ場合には,$L(E/\mathbf{Q};\,s)$はHeckeの$L$函数にによって表され,上に述べた解析接続や函数等式は1950年代にDeuring, Weilらにより解決されていた.
考える楕円曲線を,$E\colon y^2 = x^3-Dx$, $D$は整数,に限ることにする.この$E$を良還元を持つ素数$p$(具体的には$p\nmid 2D$なる素数であることが示される)で還元したときの$\mathbf{F}_p$有理点の個数は \[ \#E(\mathbf{F}_p) = \begin{cases} p +1 -\overline{\left(\frac{D}{\pi}\right)_4}\pi - \left(\frac{D}{\pi}\right)_4 \pi, \quad p\equiv1\pmod{4},\; p =\pi\overline{\pi}, \; \pi\equiv1\pmod{2+2i},\\ p +1, \quad p\equiv3\pmod{4}, \end{cases} \] で与えられる.ここで,$p\equiv1\pmod{4}$なる素数は$\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$で$p=\pi\overline{\pi}$と分解するとし,$(D/\pi)_4$は4乗剰余記号である(よってこれまでの記号で$a_p$等と書かれてきたFrobeniusのトレースも明示的に,$p\equiv1\pmod{4}$もしくは$p\equiv3\pmod{4}に応じて,$4乗剰余記号を用いて,もしくは$0$と,求められている).
さて,$O=\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$上の,導手$(8D)$,重み$1$の代数的Hecke指標$\chi$を,$O$の素イデアル$P$に対して, \[ \chi(P) \colon{}= \begin{cases} 0,\quad P\mid 2D,\\ \overline{\left(\frac{D}{\pi}\right)_{4}}\,\pi, \quad P=(\pi),\; \pi\equiv1\pmod{(2+2\sqrt{-1})}, \end{cases} \] と定義する.$\chi$に対するHeckeの$L$函数$L(\chi;\,s)$を \[ L(\chi;\, s) := \prod_{P}\left(1-\chi{(P)}N(P)^{-s}\right)^{-1} \] と定義するとこれはある半平面で広義一様に収束し,また全複素平面に整函数として接続され,$s$と$2-s$との間の函数等式をみたす.
すると,Hasse-Weil $L$函数のEuler因子に注目すると,$p\equiv1\pmod{4}$の時は \begin{eqnarray*} 1-a_p p^{-s} + p^{1-2s} &=& \left(1-\overline{\left(\frac{D}{\pi}\right)_4}\pi p^{-s}\right) \left(1-\left(\frac{D}{\pi}\right)_4\overline{\pi} p^{-s}\right)\\ &=& \left(1-\chi(P)NP^{-s}\right)\left(1-\chi(\overline{P})N\overline{P}^{-s}\right), \end{eqnarray*} $p\equiv3\pmod{4}$の時は \[ 1-a_p p^{-s} + p^{1-2s} = 1+p^{1-2s} = 1-\chi(P)NP^{-s}, \] となる.
つまり,楕円曲線$E\colon y^2=x^3-Dx$のHasse-Weil $L$函数が,Heckeの$L$函数と一致することが示される. \[ L(E/\mathbf{Q};\,s) = L(\chi;\, s). \] よって$L(E/\mathbf{Q};\,s)$も,全複素平面に整函数として接続され,$s$と$2-s$との間の函数等式をみたす.
(参考文献は,J. Silverman, Advanced Topics in the Arithmetic of Elliptic Curves (Graduate Texts in Mathematics)のChap II, §6と,Ireland-Rosen, A Classical Introduction to Modern Number Theory (Graduate Texts in Mathematics)の18章 §6.また,Hasse-Weilの$L$函数の発見の経緯については,Weil自身による証言が大変興味深い.数学の創造―著作集自註 (1983年) (数セミ・ブックス〈4〉)の[1952d]参照.

初出時$E\colon y^2=x^3+Dx$となっていたのは$E\colon y^2=x^3-Dx$の誤りでしたので訂正しました(2012/05/03)

2012年4月27日金曜日

Jacobsthal和(4)...合同ゼータ函数:mod 4で1の素数は2平方数の和

2012年4月25日水曜日の「Jacobsthal和(3):mod 4で1の素数は2平方数の和」の記号を使って,有限体上の楕円曲線の,有限体の拡大体での有理点の個数を勘定する: \[ \# E(\mathbf{F}_{q^n}) = \deg(1-\varphi^n) = \det(I-\varphi^n) = 1-\alpha^n-\beta^n+q^n. \] (detと書いているのは$\ell$進Tate加群上の線形変換として.また冪の計算は,Jordan標準形(三角行列)に移って計算すれば良い).

さて,有限体$\mathbf{F}_q$上定義された代数曲線$C$の合同ゼータ函数$Z(C/\mathbf{F}_q;\,T)$の話の定義を思い出す: \[ Z(C/\mathbf{F}_q;\, T) = \exp\left(\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\#C(\mathbf{F}_{q^n})}{n}T^n\right), \] 但し,$\mathbf{F}_{q^n}$は$q^n$元体.これを有限体上の楕円曲線に適用して上の計算結果を使うと, \[ Z(E/\mathbf{F}_q;\, T) = \frac{1-aT+qT^2}{(1-T)(1-qT)}, \quad a = \alpha + \beta. \] また$|\alpha|=|\beta|=\sqrt{q}$も分かっている.この結果から,函数等式$Z(E/\mathbf{F}_q;\,1/qT) = Z(E/\mathbf{F}_q;\,T)$も分かる.すると$\zeta(E/\mathbf{F}_q;\, s) := Z(E/\mathbf{F}_q;\, q^{-s})$とおくと \[ \zeta(E/\mathbf{F}_q;\, 1-s) = \zeta(E/\mathbf{F}_q;\, s) \] という函数等式がえられる.また,$|\alpha|=|\beta|=q^{1/2}$が曲線の合同ゼータ函数のRiemann予想の最初に示された場合であった.

つまり,Jacobsthal和は,$E\colon y^2=x^3+Dx$の時の,合同ゼータ函数の分子に表れる$a$を与えている.

以上の準備のもとで,次はHasse-Weil $L$函数とmodularity予想(志村・谷山予想)のお話をしたい.参考文献は前回同様,J. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves (Graduate Texts in Mahtematics)のV章.

2012年4月26日木曜日

木曜日はセミナ:相対類数の行列表示

木曜日は各週で,北陸数論セミナ.今日は虚Abel体の相対類数の行列表示の話だった.話題のうちの一つが,S. Jakubec, On some new estimates for $h^-(\mathbf{Q}(\zeta_p))$, Acta Arith. 137(1), 43-50だった.

奇素数$p$に対して, $p$分体の相対類数の行列表示として,大変興味深い式: \[ \det \begin{pmatrix} \left[ \frac{(m+i)(m+j)}{p} \right] \end{pmatrix}_{1\le i,\, j\le m} = h^-(\mathbf{Q}(\zeta_p)),\quad m=\frac{p-1}{2} \] が与えられている.

これまでも,虚Abel体の相対類数の行列表示は様々に与えられているが(そして今日のスピーカはその第一人者でもあるのだが), このように簡潔(両辺に余分な因子がなく,行列に明らかな対称性がある)ものは寡聞にして知らない.

例えば,$p=23$とすると,右辺の行列は次のようになり,行列式は$-3$. 一方相対類数$h^-(\mathbf{Q}(\zeta_23)=3$である: \[ \left(\begin{array}{rrrrrrrrrrr} 5 & 5 & 6 & 6 & 7 & 7 & 8 & 8 & 9 & 9 & 10 \\ 5 & 6 & 6 & 7 & 7 & 8 & 8 & 9 & 9 & 10 & 10 \\ 6 & 6 & 7 & 7 & 8 & 9 & 9 & 10 & 10 & 11 & 11 \\ 6 & 7 & 7 & 8 & 9 & 9 & 10 & 10 & 11 & 12 & 12 \\ 7 & 7 & 8 & 9 & 9 & 10 & 11 & 11 & 12 & 13 & 13 \\ 7 & 8 & 9 & 9 & 10 & 11 & 11 & 12 & 13 & 13 & 14 \\ 8 & 8 & 9 & 10 & 11 & 11 & 12 & 13 & 14 & 14 & 15 \\ 8 & 9 & 10 & 10 & 11 & 12 & 13 & 14 & 14 & 15 & 16 \\ 9 & 9 & 10 & 11 & 12 & 13 & 14 & 14 & 15 & 16 & 17 \\ 9 & 10 & 11 & 12 & 13 & 13 & 14 & 15 & 16 & 17 & 18 \\ 10 & 10 & 11 & 12 & 13 & 14 & 15 & 16 & 17 & 18 & 19 \end{array}\right). \] 固有多項式は \begin{eqnarray*} &&x^{11} - 123 \, x^{10} + 117 \, x^{9} + 458 \, x^{8} - 379 \, x^{7} - 564 \, x^{6} + 367 \, x^{5} \\ &+& 282 \, x^{4} - 136 \, x^{3} - 55 \, x^{2}+ 17 \, x + 3 \end{eqnarray*} となり,根(上の行列の固有値)は \begin{eqnarray*} &&-1.349306837913897?, -0.8862492524610375?, -0.689774313572159?,\\ &&-0.5392223128470134?,-0.1399998491597839?, 0.4845860700514344?,\\ &&0.5371995268302057?, 0.784021918674077?,1.300136124407612?,\\ &&1.488097499367649?, 122.01051142662292? \end{eqnarray*} だが,こういったものを見てもあまりぴんとこない……(例はすべてSageで計算した).

2012年4月25日水曜日

Jacobsthal和(3):mod 4で1の素数は2平方数の和

Jacobsthal和と,虚数乗法を持つ楕円曲線のFrobeniusのトレースとの関係を見る.

奇素数$p$について,Jacobsthal和とは,次の和 \[ \phi(D) = \sum_{u=1}^{p-1}\left(\frac{u^3+Du}{p}\right), \] ただし$D$は$p$で割り切れない整数,であった.

この和は,$p$元体$\mathbf{F}_p$上定義された楕円曲線$E\colon y^2=x^3+Dx$の$\mathbf{F}_p$有理点の個数と \[ \# E(\mathbf{F}_p) = p + 1 + \phi(D) \] という関係がある.実際,$x^3+Dx$が平方剰余になる$x$毎に$\pm y$の$2$点が$E$上にある.また,$x^3+Dx$が平方非剰余になる$x$は,$E(\mathbf{F}_p)$の点の個数には寄与しない.最後に,$x^3+Dx$が$p$で割り切れるとき,$1$点ある.それらがそれぞれ$1+((x^3+Dx)/p)$に等しいので,$x\in\mathbf{F}_p$で足し,無限遠点を考慮して上のようになる.($\mathbf{F}_p$上の楕円曲線$E\colon y^2=f(x)$について全く同様のことが言 える).

もう少し状況を一般化して,標数$p$の$q$元体$\mathbf{F}$上の楕円曲線$E$を考える.$\mathbf{F}$の代数閉包を$\overline{\mathbf{F}}$と書く.$\overline{\mathbf{F}}$有理点の集合$E(\overline{\mathbf{F}})$には$q$乗Frobenius自己同型$\varphi$が存在するが,$E$の$\ell$進Tate加群への作用も同じ文字で表すことにする($\ell\neq p$は素数).$\varphi$の特性多項式を \[ \det(T-\varphi)= (T-\alpha)(T-\beta) \] とすると,$\alpha,\,\beta\not\in\mathbf{R}$が示され,よって共役な複素数となる.また,$\alpha\beta = \det(\varphi) = q$より,$|\alpha| = |\beta| = \sqrt{q}$. 一方, \[ \# E(\mathbf{F}) = \# E(\overline{\mathbf{F}})^{\varphi} = \#\ker(1-\varphi) = \deg(I-\varphi) = 1 - \text{tr}(\varphi) + q. \] 特に$\text{tr}{\varphi}:= \alpha + \beta$が有理整数である事も示される.以上から \[ \text{tr}(\varphi) = -\phi(D). \] (有限体上の楕円曲線について一般的なことは,J. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves (Graduate Texts in Mahtematics)のV章を参照.)

次に,$K$を虚2次体,$H$を$K$のHilbert類体とし,$E$を$H$上定義され$K$の整数環に虚数乗法を持つ楕円曲線とする.さらに,$K$の素イデアル $\mathfrak{p}$に対して,その上にある$H$の素イデアルを$\mathfrak{P}$と書き,$\mathfrak{P}$での$E$のreduction mod $\mathfrak{P}$を$\tilde{E}$と書くことにする.

すると,$H$で完全分解するような,$K$の殆どすべての1次の素イデアル$\mathfrak{p}$に対して,$K$の素元$\pi$で$(\pi)=\mathfrak{p}$なるもので,次の図式を可換にするものがただ一つ存在する: \[ \newcommand{\ra}[1]{\kern-1.5ex\xrightarrow{\ \ #1\ \ }\phantom{}\kern-1.5ex} \newcommand{\ras}[1]{\kern-1.5ex\xrightarrow{\ \ \smash{#1}\ \ }\phantom{}\kern-1.5ex} \newcommand{\da}[1]{\bigg\downarrow\raise.5ex\rlap{\scriptstyle#1}} \begin{array}{ccc} E & \ra{[\pi]} & E \\ \da{} & & \da{} \\ \tilde{E} & \ras{\varphi} & \tilde{E}, \end{array} \] 縦の矢印はreduction mod $\mathfrak{P}$である.このとき写像の次数も保たれるので,$p=\deg\varphi = \deg[\pi] = N(\pi).$ また$\deg(1-\varphi)=\deg(1-\pi) = N(1-\pi)=(1-\pi)(1-\pi')=1+p-(\pi + \pi')$. 以上から, \[ \text{tr}(\varphi) = \pi+\pi'. \] (虚数乗法を持つ楕円曲線については,J. Silverman, Advanced Topics in the Arithmetic of Elliptic Curves (Graduate Texts in Mathematics)のII章,§15, ならびに,D. Cox, Primes of the Form x + ny: Fermat, Class Field Theory, and Complex Multiplication (Pure and Applied Mathematics: A Wiley Series of Texts, Monographs and Tracts)の§14-C参照.)

さて,$K=\mathbf{Q}(\sqrt{-1})$をGaussの数体とすれば$H=K$であり,$E: y^2=x^3+4x$は$K=\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$に虚数乗法を持つ.$p\equiv1\pmod{4}$が$K$で分解していて($p=\pi\pi'$, $\pi=a+b\sqrt{-1}$),上の一般論から$\pi+\pi'=2a$とJacobsthal和とが,$-\phi(4)=2a$と関係付くのである.

2012年4月24日火曜日

Jacobsthal和(2):mod 4で1の素数は2平方数の和

昨日の,Jacobsthal和を使った2平方数和定理の証明をもう一つ,こちらはJacobsthalの学位論文の記述に近いものである.$p$を奇素数,$A$を$p$で割り切れない整数とする: \[ \phi(A)=\sum_{x\in\mathbf{F}_p} \left(\frac{x^3+Ax}{p}\right) = \begin{cases} 0, \quad p\equiv3\pmod{4},\\ \pm 2a, \quad p\equiv1\pmod{4},\quad \left(\frac{A}{p}\right)=1,\\ \pm 4b, \quad p\equiv1\pmod{4},\quad \left(\frac{A}{p}\right)=-1, \end{cases} \] ここで$a, \, b$は$p=a^2+(2b)^2$で定まる整数.

証明だが,$p\equiv3\pmod{4}$なら$\phi(A)=0$は昨日示したとおりである.以下$p\equiv1\pmod{4}$とする.このとき$\phi(A)$は偶数になる($x$と$-x$でsummandが等しいから).

さて,$r\equiv0\pmod{p}$として,$\phi(A)$で$x$を$rx$に置き換えると,$\phi(r^2A) = (r/p)\phi(A)$が分かる.よって,$A$の,$\mathbf{F}_p^\times/\mathbf{F}_p^{\times 2}$での類に応じて,$\phi(A)$の値を$\pm 2\alpha$($A$が$4$乗剰余なら正,そうでないなら負号), $\pm 2\beta$($A$の指数が$4$で割って$1$なら正,$4$で割って$3$なら負号)と置くことが出来る).

次の和を考える: \[ \sum_{A\in\mathbf{F}_p} \phi(A)^2 \] これは前段の考察からまず, \[ \sum_{A\in\mathbf{F}_p} \phi(A)^2 = 4(p-1)(\alpha^2 + \beta^2). \] 一方,$\phi(A)$の定義を代入して展開すると \begin{eqnarray*} \sum_{A\in\mathbf{F}_p} \phi(A)^2 &=& \sum_{x,y\in\mathbf{F}_p} \left(\frac{xy}{p}\right) \sum_{A\in\mathbf{F}_p}\left(\frac{(x^2+A)(y^2+A)}{p}\right)\\ &=& \sum_{x,y\in\mathbf{F}_p} \left(\frac{xy}{p}\right) (-1 + p\delta_{x^2,y^2}) = 4p(p-1). \end{eqnarray*} よって \[ p = \alpha^2 + \beta^2. \] また,$\alpha$が奇数で,$\beta$が偶数であることも比較的容易に分かり,主張が従う.

詳細は,昨日もリンクしたJacobsthalの学位論文(1906年)の13頁付近か,D. Zagier, Elliptic Modular Forms and Their Appliation, in The 1-2-3 of Modular Forms: Lectures at a Summer School in Nordfjordeid, Norway (Universitext)の命題29を見て頂きたい.

Jacobsthal和は定義から明らかに,$y^2=x^3+Ax$で定義される,$\mathbf{F}_p$上の楕円曲線の$\mathbf{F}_p$有理点の個数と関係している.そのあたりにもいずれ触れたい.

2012年4月23日月曜日

Jacobsthal和:mod 4で1の素数は2平方数の和

素数$p\equiv1\pmod4$を$p=a^2+b^2$と表す$a,\,b$を,明示的に与えることを考える($a\equiv1\pmod{4}$, $b\equiv0\pmod{2}$とする).Jacobsthal和が次のように,その解答を与える.

$p$を奇素数($4$で割ったあまりは,最初は指定しない),$p$で割り切れない整数$D$に対して \[ \phi(D) = \sum_{u=1}^{p-1}\left(\frac{u^3+Du}{p}\right), \] とおいて,Jacobsthal和という.ただし,和の中の$(\cdot/p)$は法$p$の平方剰余記号である.

まず$p\equiv3\pmod{4}$なら$\phi(D)=0$を示す.$p=2n+1$とすると,平方剰余記号の基本的な性質から$(a/p)\equiv a^n\pmod{p}$だったから \[ \phi(D) \equiv \sum_{u=1}^{p-1}(u^3+Du)^n = \sum_{u=1}^{p-1}\sum_{j=0}^n \binom{n}{j} D^{n-j}u^{n+2j}. \] 総和を入れ替えて考えると,$u$についての和は冪指数が$p-1$で割り切れるときだけ,つまり$j=n/2$のときだけ$0$でなく,その値は$-1$. よって$n$が偶数の時,つまり$p\equiv1\pmod{4}$のときだけ$\phi(D)\neq 0$.

より単純に,$p\equiv3\pmod{4}$なら$(-1/p)=-1$だから,$u$の項と$-u$の項とが相殺する,と言うことでもある.

さて$p\equiv1\pmod{4}$のときは,上の考察から$j=n/2$の項の寄与$-1$だけがあって, \[ \phi(D) \equiv -D^{\frac{p-1}{4}}\binom{n}{n/2} = -D^{\frac{p-1}{4}}\binom{2m}{m}\pmod{p}, \] ただし$m:=n/2=(p-1)/4)$. さて$D=1$なら,昨日の結果を使って, \[ \phi(1) = \sum_{u=1}^{p-1}\left(\frac{x^3+x}{p}\right)\equiv -\binom{2m}{m} \equiv (-1)^{m+1} 2a\pmod{p}. \] また$2|a|\le p$で,$\phi(1)\leq p-1$より,実は等号 \[ \phi(1) = 2a \] が成立.

さて,$b/a\pmod{p}$が法$p$の$1$の$4$乗根である事に注意すると($p=a^2+b^2\equiv0\pmod{p}$から$(b/a)^2\equiv-1\pmod{4}$),$D^{(p-1)/4}\equiv\pm (b/a)\pmod{p}$. よって \[ \phi(D) \equiv \begin{cases} \pm 2a \pmod{p}\quad \left(\frac{D}{p}\right) = 1,\\ \pm 2b \pmod{p}\quad \left(\frac{D}{p}\right) = -1. \end{cases} \] 上と同様の議論で,これらは実は等号が成立する.

例えば,$p=29$と$D=2$とすると,$\phi(1)/2=-5$, $\phi(2)/2=-2$, $29=(-5)^2+(-2)^2$である……が,符号が合わないような気がするのだが.

Ernst Jacobsthal(1882--1965)はドイツに生まれ,ベルリン大学でG. Frobenius, H. Schwartz,I. Schurらの指導を受け,上に解説した結果を含む学位論文(1906年)を書いている.高木貞治がベルリン大学に留学したのが1898--1900年なので,それこそFrobeniusの講義などで同じ教室に居たりしていたら面白いが(その後,高木はゲッチンゲンのHilbertの元に赴き,「おまえはシュワルツの所から来たのであるからよく知っているだろう」などと,道ばたでレムニスケート函数についての口頭試問を受けたりするのである.「近世数学史談・数学雑談」の「回顧と展望」を参照).Jacobsthalはその後,第一次大戦前後の混乱(とナチの台頭)でノルウェーに脱出し,長年その地で教授職にあったらしい.以上はThe MacTutor History of Mathematics archiveの記述による.

後記(2012/04/23:0955):最後のMacTutorの名称を誤記していたのを訂正.

2012年4月22日日曜日

チューリップ

桜はそろそろ終わりの気配で,爛熟といった風情である.今日はずいぶん暖かく,ウグイスが鳴いたりもしている.他の花も開きだしている.玄関先のチューリップの写真.富山はチューリップの産地でもある.

頭の中で,桜が咲いて散って若葉が茂り,緑が濃くなって紅葉し,やがてすべての葉が落ち,丸裸の木にまたつぼみが熟していく様子を想像し,そしてそれを数十回も繰り返すと,なんというか,しんとした気持ちになる.





2012年4月21日土曜日

Jacobi和の応用:mod 4で1の素数は2平方数の和

昨日導入したJacobi和を使うと,$1$で割って$4$余る素数$p$を$p=a^2+b^2$, $a$は奇数,と書いたとき, \[ 2a \equiv (-1)^m\binom{2m}{m}\pmod{p},\quad m := \frac{p-1}{4}, \] となることを示すことが出来る.

まず上の記号で$\pi=a+b\sqrt{-1}$とし,指標$\chi=\chi_\pi$を$\chi_\pi(\alpha)=\alpha^{(p-1)/4}\pmod{\pi}$, $\alpha\in\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$, で定まるものとする.また$J(r,s)=J(\chi^r, \chi^s)$とする.このときJacobi和の定義と基本的な性質から次がなり立つことが分かる. \[ J(3,2) = \chi(-1)J(3,3) = \chi(-1)\overline{J(1,1)}=\overline{\pi}. \] 一方, \begin{align*} J(3,2) &\equiv \sum_{t=0}^{p-1}t^{3m}(1-t)^{2m} \equiv \sum_{t=0}^{p-1} \sum_{j=0}^{m} (-1)^j \binom{2m}{j}t^{2m-j}\\ & = \sum_{j=0}^m(-1)^j\binom{2m}{j}\sum_{t=0}^{p-1}t^{5m-j}\pmod{\pi}. \end{align*} 最後の$t$についての和は,よく知られているように$j=m$の時だけ消えずその値 は$1\pmod{p}$である.よって \[ J(3,2) \equiv (-1)^m \binom{2m}{m}\pmod{\pi}. \] まとめると, \[ 2a = \pi+\overline{\pi}\equiv\overline{\pi} = J(3,2) \equiv(-1)^m \binom{2m}{m}\pmod{\pi}. \] これは$\pi$を法とする合同式だが,両辺が有理整数だから$p$を法として成立する.

例えば$p=13$とすると$m=3$であり, \[ (-1)^3 \binom{6}{3} = -\frac{6\cdot 5\cdot 4}{3\cdot 2\cdot 1}=-20\equiv 6 \pmod{13}. \] すると,$6/2=3$は確かに,$3^2+2^2=13$を与える.

昨日のIreland-Rosen, A Classical Introduction to Modern Number Theory (Graduate Texts in Mathematics)に並んで,F. Lemmermeyer, Reciprocity Laws: From Euler to Eisenstein (Springer Monographs in Mathematics)の6.2節を参考にした.特に上の結果は,同書の系6.6である.

素数$p\equiv1\pmod{4}$が与えられたとき$p=a^2+b^2$を具体的に求める,と言う問題については,来週からご紹介していこうと思う.

2012年4月20日金曜日

Gauss和とJacobi和:mod 4で1の素数は2平方数の和

今日はGauss和とJacobi和を使った証明をご紹介します.

まず指標.$p$を素数として,$p$元体$\mathbf{F}_p$の乗法群$\mathbf{F}_p^\times$から複素数の乗法群$\mathbf{C}^\times$への凖同型$\chi:\mathbf{F}_p^\times\to\mathbf{C}^\times$を法$p$の指標という.値は, 原始的とは限らない$1$の$p-1$乗根になる.例えば$\iota:\mathbf{F}_p^{\times}\ni t\mapsto 1\in \{1\}$は自明な指標, また法$p$の原始根$g$を$\exp(2\pi\sqrt{-1}/(p-1))$に対応させる写像から,位数が$p-1$の指標が定まる.法$p$の指標たちは値の積で群になり,これは$\mathbf{F}_p^\times$と同型になる.

法$p$の指標$\chi$と$a\in\mathbf{F}_p$に対して \[ g_a(\chi):= \sum_{t\in\mathbf{F}_p}\chi(t)\zeta^t,\quad \zeta=\exp\left(\frac{2\pi\sqrt{-1}}{p}\right) \] とおいて,これを$\chi$のGauss和という.簡単な計算で,$a\neq 0$,$\chi\neq \iota$なら$g_a(\chi)=\chi(a^{-1})g_1(\chi)$が分かる.以下$g_1(\chi)$を単に$g(\chi)$と書くことにする.重要な結果として,Gauss和の複素数としての絶対値を求めることができる: \[ |g(\chi)| = \sqrt{p},\quad(\chi\neq\iota). \]

次にJacobi和を導入する.$\chi$, $\lambda$を法$p$の指標として \[ J(\chi,\lambda) := \sum_{a+b=1}\chi(a)\lambda(b), \] をJacobi和という.Gauss和との関係は$\chi\lambda\neq\iota$なら \[ J(\chi,\lambda) = \frac{g(\chi)g(\lambda)}{g(\chi\lambda)}. \] すると,この二つから,Jacobi和の複素数としての絶対値が計算できる. \[ |J(\chi,\lambda)| = \sqrt{p}.\tag{*} \]

さて,素数$p\equiv1\pmod{4}$について$\chi$を法$p$の位数$4$の指標とする(指標群が位数$p-1$の巡回群だから,位数$4$の元が存在する.この指標は,$a\in\mathbf{F}_p$が$4$乗であるときに$1$になる,$4$乗剰余記号である).すると$\chi$の値は$\{\pm1, \pm\sqrt{-1}\}$である.よって$J(\chi,\chi)$の値はGauss整数環$\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$の元.また,$\chi^2\neq\iota$なので,上の$(*)$式からただちに \[ p = |J(\chi,\chi)|^2 = a^2 + b^2, \quad(a,\, b\in\mathbf{Z}). \]

例えば$p=5$なら$g=2$に取れて,位数$4$の指標$\chi$は$g$を$\sqrt{-1}$に対応させるものである.$\chi(3)=-\sqrt{-1}$, $\chi(4)=-1$などからJacobi和を計算すると,$J(\chi,\chi)=1-2\sqrt{-1}$となり,よって$5=1^2+2^2$である.

以上については,Ireland-Rosen, A Classical Introduction to Modern Number Theory (Graduate Texts in Mathematics)の8章をご覧頂きたい.

2012年4月19日木曜日

2次形式による整数の表現:mod 4で1の素数は2平方数の和

2元2次形式の理論を用いたLagrangeの証明を,Gaussが整理したもので,ガウス 整数論 (数学史叢書)の§182に載っている.Cohen, A Course in Computational Algebraic Number Theory (Graduate Texts in Mathematics), Chap. 5, ならびに,ザギエ,数論入門―ゼータ関数と2次体の2章も参照.

整係数2元2次形式とは,整数係数の2変数2次式の事で,$f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2$, $a,\, b,\,c\in\mathbf{Z}$, とする.$f(x,y)$の判別式$D(f)$を$b^2-4ac$と定義する.係数$a,\,b,\,c$の最大公約数が$1$のとき,$f$は原始的という.また,$f$が簡約2次形式とは,係数が次の条件を満たす時を言うこととする: \[ |b| \le a \le c, \] 更に,一方の等号のみが成立する際は$b\le 0$とする.

整数を成分とする$2$次の行列で行列式が$1$のものの全体を$SL_2(\mathbf{Z})$と書く. ふたつの整係数2元2次形式$f(x,y)$, $g(x,y)$が同値とは, \[ \begin{pmatrix} x'\\ y' \end{pmatrix} = A \begin{pmatrix} x\\ y \end{pmatrix} \quad A \in SL_2(\mathbf{Z}) \] の変数変換で$f(x',y')=g(x,y)$となることとする. 同値な2次形式の判別式は等しい(ことが計算で確認できる)ので, 指定された判別式を持つ原始的整係数2元2次形式を,この同値関係で類別して考えることが出来る.

以下では$a>0$かつ$D(f)<0$なる2次形式のみ考える.このときには,上の同値類のそれぞれに,ただ一つ簡約2次形式が存在することが分かる.

さて,整数$N$が2次形式$f(x,y)$で表されるとは,ある整数$t,u$が存在して, \[ N = f(t,u) \] となることとする.$f$が$N$を表現するなら,$f$と同値な2次形式も$N$を表現 することに注意する.

我々が考えていた問題は,素数$p\equiv1\pmod{4}$が,判別式$-4$の原始的2次 形式$f(x,y)=x^2+y^2$で表される,ということである.さて$p\equiv1\pmod{4}$ より,$1+m^2$が$p$で割り切れるような整数$m$が存在するのだった.すると, \[ g(x,y) = px^2 + 2mxy + \frac{m^2+1}{p}y^2 \tag{*} \] は,やはり判別式$-4$の原始的2次形式である.しかも, \[ p = g(1,0) \] と,$g$は$p$を表現する.

さて,Lagrangeにより,判別式$-4$の2次形式はいずれも同値である事が示されている! したがって,$f(x,y)= x^2+y^2$も$p$を表現する.

(現代風に言えば,虚2次体$\mathbf{Q}(\sqrt{-1})$の類数は$1$なので,$(*)$ 式の2次形式は$x^2+y^2$と同値になり,よって$p=x^2+y^2$と表される,と言う ことである.)

2012年4月18日水曜日

mod 4で1の素数は2平方数の和(2)

さて,昨日使った事実

「素数$p\equiv1\pmod{4}$について,ある$0< m< p$が存在して,ある整数$x$について$1+x^2=pm$が成立」
の証明を与える.まず$\{1^2,\, 2^2,\, \dots, ((p-1)/2)^2\}$の法$p$での剰余類が,法$p$の既約剰余類のうち,平方剰余であるものを尽くしていることに注意する.つまり,これらのあいだに(法$p$で)等しいものはなく,また平方剰余な元と平方非剰余な元とは同数$(p-1)/2$個あるのだった.

一方で,$p\equiv1\pmod{4}$なら$-1$が平方剰余である(平方剰余記号の第一補充法則.つまり,法$p$の原始根$g$を取れば$g^{(p-1)/4)}$が$1$の原始4乗根を与え,よって$-1$は平方剰余である).よってある正整数$m$が存在して,
\[
 1+x^2=pm\quad(\exists x\in\{1,\,2,\,\dots,(p-1)/2\}).
\]
すると
\[
pm = 1+x^2 \le 1+\left(\frac{p}{2}\right)^2 \le p^2
\]
なので$m\lt p$である.

こういった話をするときに,どこまでの知識を仮定するのかをはっきりさせておいた方が良いかもしれない.素数を法とする原始根の存在と,冪剰余の定義,特に平方剰余と平方剰余記号の相互法則くらいまでだろうか.小野孝先生の「数論序説」1章から,連分数に関する事項を除いたくらいである.(群環体の基本的な言葉遣いは含む).あるいは,中島匠一先生の「代数と数論の基礎 (共立講座21世紀の数学)」のやはり1章であろうか.

2012年4月17日火曜日

mod 4で1の素数は2平方数の和


素数$p$が$p\equiv1\pmod{4}$なら,整数$x,\,y$が存在して
\[
 p = x^2 + y^2
\]
という結果はよく知られているが,それについてしばらくお話しします.

まずP. Fermatによる無限降下法を用いた証明.証明したいことより弱い結果,
整数$x,\,y,\,m$が存在して
\[
 mp = x^2 + y^2,
\]
ただし $0\lt m\lt p$, が言えたとする(これが言えることは後述).$m_0$をそのよう
な最小正の数として,$m_0=1$が言いたい.$m_0\neq1$とすれば $1< m_0 < p$.
すぐ分かるように$m_0\mid x$かつ$m_0\mid y$は不可能.$c,\,d $を
\[
 x_1 = x-cm_0, \quad y_1 = y-dm_0,\quad |x_1|\le \frac{m_0}{2},\quad
 |y_1|\le \frac{m_0}{2}, \quad
\]
となるように取ることができ,よって
\[
0 < x_1^2+y_1^2  < m_0^2.
\]
すると,
\[
 x_1^2 + y_1^2 \equiv x^2+y^2\equiv 0\pmod{m_0},
\]
よって
\[
 x_1^2 + y_1^2 = m_1m_0 \quad (\exists m_1\lt m_0).
\]
この式に,$x^2+y^2=m_0p$を掛けて整理すると
\[
m_0^2 m_1 p = (xx_1+yy_1)^2 + (xy_1-x_1y)^2.
\]
ここで$X=p-cx-dy$, $Y=cy-dx$とすると
\[
 xx_1+yy_1 = m_0X, \quad xy_1-x_1y = m_0Y.
\]
よって
\[
 m_1p=X^2+Y^2
\]
となり,$m_1\lt m_0$だから$m_0$の取り方に矛盾する.

2012年4月16日月曜日

桜満開

富山でもようやく桜が満開になった.家族で富岩運河環水記念公園に花見に出かける.
子供たちは遠足だと思って浮き足立っており,着いたらお弁当にしようとかジュースを買ってとかはしゃいでいるのだった.

正午頃にはまだ肌寒いような風だったが,しばらく陽の下にいると暖まってきた.散策をし,またアスレチック遊具で子供を遊ばせるなどする.おやつにスターバックスで何か,と思ったが,大行列であった.見送って,帰宅途中に百貨店へ寄るついでにおやつにした.

2012年4月15日日曜日

Szemerediの定理・素数の等差数列

昨日まで述べてきたvan der Waerdenの定理を含む,より一般的な次の予想(現在では証明されている)がある:
「Erdős-Turan予想(On some sequences of integers, Journal of the London Mathematical Society 11 (4): 261-264)」$=$「Szemerédiの定理(1975)」

任意の正整数$l$と正の実数$\delta$に対して,正整数 $L(l,\delta)$が存在して,もし$L\geq L(l,\delta)$なら,$[1,L]$の任意の部 分集合$A$で,$\# A \geq \delta L$を満たすものは,$l$項からなる等差数列を 含む.

この主張からvan der Waerdenの定理を導くには,$N(l,r)$として,$L(l,1/r)$を取ればよい.

Szemerédiの定理は,K. F. Rothによる$l=3$の場合(1953)の,またSzemerédiによる$l=4$の場合の(1969)証明を経て示された. Szemerédiによる証明は組合せ論的なきわめて複雑なものらしい(読んでません.)Szemerédiはこの問題を含む多大な貢献により,2012年のAbel賞を受賞している.

H. Furstenbergが1977年にエルゴート理論を用いる証明を発表した(それは先日の記事に挙げたM. Einsiedler and T. Ward, Ergodic Theory: With a View Towards Number Theory (Graduate Texts in Mathematics)に解説されている).

更にT. Gowersが2001年に,実調和解析に基づく証明を与えた.A new proof of Szemerédi's theorem, GEOMETRIC AND FUNCTIONAL ANALYSIS Volume 11, Number 3, 465-588. Gowersによる証明は$L(l,\delta)$の上からの評価も含んでおり,よってvan der Waerden数$W(l,r)$の評価も与え,例えば$l=4$の時なら$W(4,r)=\exp(\exp(r^c))$, $c$は定数,などである.これは昨日紹介した,Shelahによる評価を大きく改善する.

さて,以上の話とは少し毛色が変わるのだが,素数の分布の問題で,関連する重要な話題がある.Ben GreenとTelence Taoは2008年に,素数全体の集合上におけるSzemerédiの定理,と言うべきものを証明した(The primes contain arbitrarily long arithmetic progressions, Volume 167 (2008), Issue 2, arXiv:math/0404188v6 のTheorem 1.2).すなわち

「$A$を素数の集合で \[ \limsup_{N\to\infty} \frac{\#(A\cap [1,N])}{\pi(N)} > 0, \] ここで$\pi(N)$は$N$以下の素数の個数,を満たすものとする.このとき$A$は任 意の$k$に対して,長さ$k$の等差数列を無数に含む. 」

よって特に,論文のタイトルにもなっている,「素数全体の集合の中に,任意の長さの等差数列が存在する」ことも言える.

このGreenとTaoの論文については,小木曽啓示氏による,「混沌の中の秩序---素数列をめぐって」という素晴らしい解説があるので,そちらを是非ご覧頂きたい.

2012年4月14日土曜日

van der Warden数とその仲間たちの評価

昨日までに述べた,van der Waerdenの定理
「任意の正整数$l$, $r$に対して正整数$N(l,r)$が存在して,$\forall C:[1,N(l,r)]\to [1,r]$に対して正整数$a,\, d$が存在して,$C(a+xd)$, $x=1,\dots, l$は一定値」,
Graham-Rothschildの定理
「任意の正整数$l$, $r$に対して,或る$N(l,m,r)$が存在して次を満たす:任意の$C:[1,N(l,m,r)]\to[1,r]$に対して,或る$a,\, d_1,\dots, d_m \,(>0)$が存在して,$C(a+\sum_{i=1}^{m} x_i d_i )$は,$[1,l]^m$の各$l$同値類上で定数」
は,つまるところ,十分長い区間$[1,N]$ならば,どのように塗り分けても,同じ色になってしまう長い等差数列がある($l$同値類がある),ように$N$を取ることができる,ということだった.

すると次は,$N(l,r)$や$N(l,m,r)$がどのくらいの大きさの数になるのか(十分長い区間の長さはどれくらいか?),が気になってくる.正整数$l$, $r$について,van der Waerdenの定理が存在を保証するような$N(l,r)$の内最小の数を$W(l,r)$と書く.この数の上からの評価については面白い経緯があったようで,それをSaharon Shelah, Primitive recursive bounds for van der Waerden numbers, J. Amer. Math. Soc. 1 (1988), 683-697, から抜き書きしておく.

1970年代に,Solovayは$W(l,r)$が本質的にAckermann関数と同じぐらい速く大きくなることを示す(よって$W(l,r)$は原始帰納的関数で無いこと,同時に,van der Waerdenの定理の証明には二重帰納法が必須である事を示す)ための研究プログラムを提唱した.一方そのプログラムが遂行可能である事に疑念を示す研究者もいた(KrieselやMacIntyre)し,それどころか,Grahamのように,$W(l,r)$が原始帰納的でないという主張に同意しない研究者もいた.

結局,上の論文でShelahは,Grahamが言うように$W(l,r)$は原始帰納的関数であること,並びに,関連する他の問題(Hales-Jewettの定理,Graham-Rothschildの定理,Affine Ramsey定理)に現れる定数についても同様である事を示した.

Shelahは最初,Solovayが言うように$W(l,r)$は原始帰納的関数ではない,と思っていが,結局Grahamのほうが正しかった,と書いている.「定理は成立を信じるものによってのみ証明される」,とよくいうが,このようなことがあるので,一概には言えないようである.

原始帰納的関数やAckermann関数については,藤田さんの「なげやりアカデミア」に「原始帰納的函数とアッカーマン函数」という文書があり大変参考になる.

2012年4月13日金曜日

Graham-Rothschildの定理の証明(2・完結)

昨日に引き続き,Graham-Rothschildの定理の証明の続き.次の主張2により証明が完結すると同時に,特別な場合としてvan der Waerdenの定理も従う.

主張2: $S(l,m)$が任意の$m\ge 1$で成立すれば,$S(l+1,1)$も成立.

証明:正整数$r$を任意にとって固定する. \[ C:[1,2N(l,r,r)]\to[1,r] \] が与えられたとする.($N(l,r,r)$は$S(l,r)$が正しいという仮定から存在す る.$N(l+1,1,r)$の候補として$2N(l,r,r)$をとりたい.証明すべきことは, 任意の$r$に対して$N(l+1, 1, r)$が存在して,任意の $C:[1,N(l+1,1,r)]\to[1,r]$に対して,ある$a',\, d'$が存在して,$C(a'+xd')$は $[1,l]$の$l$同値類上定数,ということ).

すると,或る$a,\, d_1,\dots, d_r$が存在して$\forall{x_i}\in [0,l]$, $(i=1,\dots, r)$に対して

  • $a+\sum_{i=1}^{r}x_i d_i \le N(l, r, r)$,
  • $C(a+\sum_{i=1}^{r}x_i d_i )$は$l$同値類に対して定数.
鳩ノ巣原理より,或る$u,\, v\in [0,r]$で$u< v$であり, \[ C(a+\sum_{i=1}^{u}ld_i) = C(a+\sum_{i=1}^v ld_i) \] となるものが存在する($a, a+\sum_{i=1}^k ld_i$, ($k=1,\dots,r$)の$r+1$個の値に対して, その色($C$で写した値)が$r$個しかないので重複が生じる).

よって, \[ C\left(\left(a+\sum_{i=1}^u ld_i\right) + x\left(\sum_{i=u+1}^v d_i\right)\right) \] は$x\in [0,r]$に対して定数.(なので,$a'=(a+\sum_{i=1}^u ld_i)$, $d'=\sum_{i=u+1}^v d_i$としたい). また \[ a + (l+1) \sum_{i=u+1}^v d_i \le 2N(l,r,r). \] よって$S(l+1, 1)$が成立する.これで主張2が示された.

さて$S(1,1)$は自明に成立するから,上の二つの主張から,任意の$l, \,m\ge 1$に対して$S(l, m)$が成立,つまりGraham-Rothschildの定理が示された.また, van der Waerdenの定理は$S(l, 1)$に他ならない.

Graham-Rothschildの定理の原論文は,Proceedings of AMSで公開されている.また,M. Einsiedler and T. Ward, Ergodic Theory: With a View Towards Number Theory (Graduate Texts in Mathematics)の7章冒頭にも分かりやすく解説されている.

2012年4月12日木曜日

Graham-Rothschildの定理の証明(1)

昨日の,Graham-Rothschildの定理は,「任意の正整数$l$, $m$について$S(l,m)$が成立する」というものだった.言い換えると,或る$a,\, d_1,\dots, d_m \,(>0)$が存在して, \[ [1,l]^m \ni (x_1,\dots, x_m) \mapsto a + \sum_{i=1}^{m}x_i d_i \in [1,N(l,m,r)] \stackrel{C}{\longrightarrow} [1,r] \] は$[1,l]^m/\sim_{l}$を経由する,という主張である.証明は二重帰納法で,今日はまず$m$についての議論.

主張1:$S(l,m)$が或る$m\ge 1$で成立すれば$S(l,m+1)$も成立.

証明:正整数$r$を任意にとって固定する.$M=N(l,m,r)$, $M'=N(l,1,r^M)$と置く.$C:[1,MM']\to [1,r]$が与えられたとする.($N(l,m+1,r) = N(l,m,r)N(l,1,r^M)$としたい). \[ C':[1,M']\to [1,r^M] \] を,$C'(k)=C'(k')\Leftrightarrow C(kM-j) = C(k'M-j)$, $0\le \forall j\le M$と定義する. 帰納法の仮定から,或る$a',\, d'$が存在して$C'(a'+xd')$は$x\in [0,l-1]$で定数となる.

$S(l, m)$は区間$[a'M+1, (a'+1)M]$にも適用できる.また,$M=N(l,m,r)$のとり方から,$a,\, d_1,\dots, d_m \,(>0)$で \[ \{ a+\sum_{i=1}^{m}x_i d_i |\, x_i\in [0,l]\} \subset [a'M+1, (a'+1)M], \] かつ$C(a+\sum_{i=1}^{m}x_i d_i)$は$l$同値類上定数,となるものが存在する.すると, \[ d_i' =d_i,\, (i\in[1,m]),\, d_{m+1}'=d'M \] とすれば,$S(l, m+1)$が成立する.

9:00後記:TeXnicalな修正.

2012年4月11日水曜日

van der Waerdenの定理,Graham-Rothschildの定理

記号を一つ用意する.正整数$n$に対して,$[1,n]$と書いたら,正整数の列$\{1,2,\dots,n\}$とする.
さて,van der Waerdenの定理
「任意の正整数 $l$, $r$に対して正整数$N(l,r)$が存在して,$\forall C:[1,N(l,r)]\to [1,r]$に 対して正整数$a,\, d$が存在して,$C(a+xd)$, $x=1,\dots, l$は一定値」
という主張がある.つまり,$C$は区間$[1,N(l,r)]$を$r$個の色に塗り分けていると思えば,同じ色の有限等差数列$a+xd$, ($x=1,\dots, l$)が存在するというものである.

この証明は,例えば,ア・ヤ・ヒンチン著,蟹江訳の「 数論の3つの真珠 (はじめよう数学) に載っているのだが,比較的複雑なものである.

主張を一般化(高次元化)した,Graham-Rothschildの定理というものがあって,次の主張$S(l,m)$が任意の正整数$l,\, m$に対して成立することを主張する:
「$\mathbf{S(l,m)}$: 任意の$r$に対して,或る$N(l,m,r)$が存在して次を満たす:任意の $C:[1,N(l,m,r)]\to[1,r]$に対して,或る$a,\, d_1,\dots, d_m \,(>0)$が存在して,$C(a+\sum_{i=1}^{m} x_i d_i )$は,$[1,l]^m$の各$l$同値類上で定数」,
ここで,$l$同値というのは,次のように定義される:
$(x_1,\dots, x_m), (x_1',\dots, x_m')\in [0,l]^m$が$l$同値とは,
  • 全ての$i=1,\dots, m$に対して,$x_i\lt l$, $x_i'\lt l$であるか,もしくは
  • 最後に$l$が現れる所まで成分が一致している,つまり,
    • ある$k$に対して$x_k=x_k'=l$, かつ,
    • $x_j< l$, $x_j' < l$($k< j \le m$)かつ
    • $x_i=x_i'$ ($1\le i\le k$).
このとき$(x_1,\dots, x_m)\sim_{l}(x_1',\dots, x_m')$と書く.
この証明を,2回ほどに分けて述べてみたい.主張は一般化されているが,そうすると意外なことに,証明はずっと簡潔になる.

2012年4月10日火曜日

2012年度前期・線形代数学

今年度前期は数学科2年生向けの線形代数学を担当する.教科書は,当該学年が1年生の時のものを引き継いで,S. Axler, Linear Algebra Done Right (Undergraduate Texts in Mathematics). 同書のAmazon.comでのレビューを見ると,66件中36件が☆☆☆☆☆と高評価である. 

目次を見ると,行列式とトレースが最後の章で導入される.固有値はどうするのかというと,そこが工夫したところらしい(どうするのかはそのうち書くような気がするし,気になる方はなか見!検索で確認していただきたい).

 届いた本の最後の頁に,"Produced by Amazon, Printed in Japan"とあったのが意外だった.残念ながらKindle版は無いようだ.SpringerLinkに収録されているのかもしれないが,勤務先では書籍までは見られない.

2012年4月9日月曜日

ちんどん

久々の好天だったので,コーヒー豆の補充がてら子供たちを連れて外出.富山の中心部では「チンドンコンクール」を開催していた.

ちんどん屋というのはふしぎなもので,扮装と音楽とで,簡単に日常の時間をお祭りの雰囲気に変えてしまう.しかし子供たちは少し戸惑っているようであった.特に下の写真の人形が迫ってきたときには,後ずさっていた.

かき氷を食べたり,一口カステラを食べたりして機嫌を直した様子だった.






2012年4月8日日曜日

新年度色々

新年度になって公私ともセレモニーが続いておちつかない1週間だった.ノートのページ数の消化の様子でもよくわかる.

B4が3名,M1が1名,それぞれ私が担当するゼミに配属になった.新たな気持ちで勉強していきたい.

子供も,就学したり,保育所から幼稚園へ鞍替えしたりした.写真は,先々のことを考えて頭を抱えている様子,であろうか :)

2012年4月7日土曜日

新入生オリエンテーション

昨日金曜日は,今年度も新入生を迎え,学科でのオリエンテーション.いつも言っているジョークを先に書いておくと,「新入生諸君が向き付け不能でないことを祈る」.

ここ数年,オリエンテーションの司会進行などをしていたのだが,今年は同僚と交代したので気楽と言えば気楽.一方で,カリキュラムが改訂されたので技術的な細部が少し変更になり,新入生が聞く説明を聞きながら,自分も詳細をチェックした.

4年間たっぷりと勉強して,卒業するときには立派な数学シンパになっていただきたい.

新年度にあたり,「新年度にお勧めしたい本」も少しだけ改訂した.